第52章

エレベーターの中で二人は沈黙していた。

最後に、稲垣栄作が先に口を開いた。「どうして自分で薬を用意したんだ?稲垣グループが開発した避妊薬を...」

高橋遥は自嘲気味に言った。「避妊薬なんて、どれも同じでしょ?」

彼女は彼を見つめ、さも当たり前のように尋ねた。「どうしてついてきたの?あなたの愛人の側にいなくていいの?白井さん、あなたの傍にいてほしそうだったけど」

稲垣栄作の瞳の色が深くなった。

彼は彼女の顔を見つめ、その表情を読み取ろうとしていた。

しばらくして、彼は視線をそらし、鏡に向かってネクタイを整え、タイピンの位置も調整した。彼の視線が鏡の中で彼女と交わり、そしてさも何気な...

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